東京高裁平成19年6月28日判決・判タ1279号273頁
【論点】
「もともと社会的評価が低い人は,さらに社会的評価が下がることはない。」
名誉毀損の裁判をやっていると,相手方からこのような反論を受けることがあります。
【判決要旨】
「法的な保護に値する名誉とは,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価であるということができるところ,本件記事は,日本赤軍の最高幹部である第1審原告が凶悪非道な若王子事件に実行犯ではないとしても関与したことを報道するものであり,仮に関与したと報道された者が市井の一市民であれば,その者の社会的評価を低下させ,これにより名誉を毀損するものということができる。しかしながら,以上認定の事実によれば,第1審原告は,国際テロ組織である日本赤軍の最高幹部であり,日本赤軍が組織的に敢行したテロ事件のうちドバイ事件及びダッカ事件に実行正犯として関与し,特にダッカ事件では主導的役割を果たし,これにより,無期懲役の刑を宣告され判決が確定して,服役中の者であり,市井の一市民と同等に考えることはできない。すなわち,第1審原告については,上記テロ事件への関与並びにこれについて無期懲役の刑を宣告した判決の存在及びその執行により,その社会的評価は既に低いといわざるを得ず,加えて,本件既報記事により,既に,若王子事件に何らかの形で関与した者であることが広く報道され,一般の読者からそのような印象を持たれている者であるから,本件既報記事から相当の年数を経て報道された本件記事及びこれを構成する①ないし④記事により,第1審原告の社会的評価が更に低下するとは認め難く,仮に低下するとしても法的保護に値するほどのものとは認められない。」
【コメント】
私見は,本判決は,複数のテロ事件に実行犯・主導的役割を果たした「市井の一市民と同等に考えることはできない」程の人に関する特殊な判決であり,あまり一般化できないと思います。
↑この記事で述べた通り,「どのような人でも…人として尊重されるべき一定の社会的評価を有しているというべきであるから、その人に向かって何を言ってもよいなどといえるはずはない。」「社会から受ける評価が低いとの点は、名誉毀損に対する賠償額の認定、判断に際して斟酌されるに止まるというべきである」(上記東京高裁平成5年判決)からです。
平成5年判決が述べる通り,対象人物の社会的評価が既に低いことは,損害論の話でしょう。