法律ABC

最近の“ログイン型”について思うこと―知財高裁令和3年2月4日判決等

久しぶりに投稿します。後半は愚痴です。

インターネット上で誹謗中傷を受けたり,著作権を侵害されたりした場合,損害賠償を請求したいと思う。だけどわが国の民事訴訟は相手方の住所・氏名が分からないと始められないから,まずはプロバイダ責任制限法4条1項(以下,「プロ責法」という。)を使って発信者情報の開示請求をする。

この,インターネット上の権利侵害問題を扱っていると直面するのが,いわゆる“ログイン型論点”である。
SNSと呼ばれるサービスはたいてい,①ログイン→②投稿という手順を踏む。特定のアプリにログインしっぱなし,という人もいるだろう。

SNSのサービス提供者(コンテンツプロバイダという)は,投稿時の通信ログは残しておらず,投稿に先立つログイン時の通信ログを記録している。
要は,①ログイン→②投稿という手順の内,①ログインの記録のみがコンテンツプロバイダに残っているというわけだ。

ところで,現行のプロ責法4条1項は「当該権利の侵害に係る発信者情報」の開示を請求できる。①投稿前にログインした人に関する情報は,この「~に係る発信者情報」として,開示はできるだろうか?

通常,②投稿した人と,その前に①ログインした人は同一人物だから,できるでしょ,という考え方がある(以下,「非限定説」という。)。ちょうど法も「係る」情報といっているのだから,①ログインした人の情報も「権利の侵害に係る発信者情報」でしょう。
非限定説によれば,SNSで誹謗中傷受けたり著作権を侵害された人の権利は救済されることになる。

しかし,①ログインした人の情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」とはいえないから,プロ責法による開示は認めない,という考え方もある(以下,「限定説」と呼ぶことにする。)
ん?どういうこと??
限定説は,当該投稿をした人物が,そのアカウントにログインした人とは限らない,①ログインした人と,②投稿した人は別人の可能性があるから,①ログインした人の情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」とはいえない,と考える。同じアカウントを複数人で使いまわしているかもしれないからねと。
限定説によると,SNSで権利の侵害を受けた人はほとんど救済されず,現代SNSは無法地帯,ということになる。

この“ログイン型論点”,詰まるところ,①ログインした人と②投稿した人が原則として同一人物と考えるか(非限定説),別人と考えるか(限定説),というのが最大の対立点だと考えています。

実は,この限定説と非限定説,裁判官によって見解が異なり,どちらかというと限定説(ログインと投稿は別人)が主流でした。
私がこの問題を手掛けるようになった平成28年ころは,非限定説を採る裁判例は東京地裁と高裁に1つずつ,という程度だったかと思います。高裁レベルで判断が分かれているのに最高裁も上告を拾いません。
つまり,従来,TwitterやFacebook等,SNSでは何を言われても投稿者を特定することは出来ない,無法地帯だったといえます

しかし,このコロナ過になって人々がSNSに掛ける時間が多くなったからなのか,(具体的な事件については言及しませんが)ようやくSNS上での誹謗中傷等が社会問題と認識されるようになりました

そこで,問題のプロ責法4条が法改正されることになり,来年施行予定です。
私もパブコメに熱い投書をしました。
総務省の最終とりまとめには次の記載があります。

なお、権利侵害が行われたアカウントによるログイン時情報の場合であっても、当該アカウントが複数の者により共有されている場合等においては、必ずしも同一の発信者ではない場合も考えられる。しかしながら、共有アカウントの事例は例外的な事情であり、それ以外に同一の発信者によるものではないケースというのは、アカウントの乗っ取りが発生した場合など、更に例外的な場面にとどまることから、同一のアカウントのログイン時の通信と権利侵害投稿通信は基本的に同一の発信者から行われたものと捉えることができると考えられる。

総務省「発信者情報開示の在り方に関する研究会 最終とりまとめ」(令和2年12月)8頁

基本的には非限定説(ログインと投稿は同一人)の考え方です。
そうですよね。そもそも,多くのSNSでは,自分のアカウントを第三者に譲渡したり貸与したりすることは禁止しています(規約を見てみてください)。
普通,自分のアカウントやパスワードを他人に教えないでしょう。

このような流れもあってか,最近は現行プロ責法4条1項でも,非限定説を採る裁判所(裁判官)が増えてきています。
直近ですと,
・大阪地裁令和3年1月14日判決・裁判所web
・東京高裁令和2年11月26日判決・D1-Law29059113
・東京高裁平成30年6月13日判決・判時2418号3頁
等々があります。

例えば,知財高裁令和3年3月11日判決は次のように,ストレートに述べています。

 本件サービスは、本件会員サービスに登録した会員において、登録時に設定したパスワード等を入力しなければ利用できないサービスである…から、本件会員サービスへの登録手続をした者と、本件サービスの利用者とは、通常、同一人であると考えられる。

 …他方、本件規約は、登録時に虚偽の情報を掲載することや認証情報を第三者に利用させること等を禁止し…、登録情報に変更が生じた場合や認証情報を第三者に知られた場合等には被控訴人への連絡義務等を定め…、それらの違反や著作権を侵害する投稿をした場合等については、被控訴人からの利用停止や退会処分等の制裁を課すこととされている…。そして、以上の内容は、登録によって、会員と被控訴人との間の契約の内容となるとされている…

 以上の点は、本件会員サービスへの登録に当たり、登録をする者が自らにおいて通常使用する電子メールアドレスを入力することを推認させる事情であるとともに、いったん会員となった者が、自己の認証情報を第三者に使用させたり、第三者に譲渡することがないことを推認させる事情であるといえる。

知財高裁令和3年3月1日判決・裁判所web


しかし,未だに限定説(ログインと投稿は別人)の判決も多いんですよ。
同じ知財高裁の別の部では,最近次のような判断がされています。

…控訴人は、…最終ログイン者が本件投稿行為をした者であることが認められ、ないしはそのように評価されると主張する。しかし、以下のとおり、本件において最終ログイン者が本件投稿行為をしたと認め、又はそのように評価することはできない

本件サイトでユーザ名やパスワードが共有される可能性は否定できず、…、また、利用規約も遵守されるとは限らないこと、本件投稿行為から最終ログインまで約1年8か月を経過していることからすると、本件投稿行為をした者と、最終ログイン者の本件サイトにおけるユーザ名やパスワードが共通であったとしても、両者が同一とは直ちにはいえない

知財高裁令和3年2月4日判決・裁判所web

かつて私も同じような判決をもらいました。

 本件において,本件ログインに係るIPアドレスは,権利の侵害に用いられた本件アカウントと同一のアカウントへのログインの際に用いられたものである。そして,上記のとおり開示請求の対象となる情報が権利侵害に係る送信そのものの情報でなければならないわけではなく,開示請求の対象となるIPアドレスが権利侵害と時間的に接近した時期に同一アカウントへのログインに用いられたと認められる場合や,時間的に接近していなくても同一アカウントへのログインに用いられたIPアドレスが特定のものに限定されている場合などには,当該IPアドレスが権利の侵害に係る情報であると認められる場合はあり得るといえる。しかし,本件ログイン情報は,本件各投稿1が最後に投稿された日から2か月半以上経過した後のログインに関する情報であるし,本件アカウントについては1日に7種類ものIPアドレスからのログインがされた日もある上,本件アカウントの管理状況は具体的に明らかではなく,常に同一人がログインを行っていたとも限らないのであって,控訴人らの主張及び立証によっても,何らかの事由によりアドレスが複数人によりログインが可能であったなど,本件ログインに係るIPアドレスが権利侵害に用いられたものと同一ではない可能性を排斥し切れてはいないというほかない。そうすると,本件ログインに係るIPアドレスが権利侵害に係る発信者情報に該当することが立証されたとはいえないのであって,控訴人らの主張は採用し得ない。

 …開示請求者は,開示を求めるログイン情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に該当することについて立証しなければならないところ,同一のアカウントへのログインに用いられた異なるIPアドレスにつき,当該IPアドレスがいずれも同一のISP(インターネットサービスプロバイダ)により提供されたからといって,それが異なる者に割り振られた可能性は否定できないのであって,…

東京高裁令和元年10月23日判決・2019WLJPCA10236008



いや,1人の人間が複数のIPアドレスからログインすることは普通にあります。
1人で複数のタブレット,スマホ,PCから,同じSNSにログインしたら別のIPアドレスが検出されますからね・・・

そりゃあ刑事事件では警察官が電話1本かければ簡単に出てくる情報かもしれません。
だけど,警察は普通,市井の,被疑者不詳の侮辱や名誉毀損,著作権侵害くらいでは捜査しません
ネット上のプライバシー侵害は明確な刑事法令もありません。
侮辱罪の法定刑を上げる検討するそうですが,現場の感覚が変わらないと一緒です。
となれば,民事でやらなければなりません
まぁ,可罰的違法性という観点から,刑事でやるよりも基本的に民事で,という運用は私も否定しません。

来年からは改正後の新法を使って,私はSNS上の権利侵害と戦います。
しかし,通信ログは日々失われていきます
今まさにSNS上で権利を侵害されている人は,現行法を使わなければなりません。

たしかに,表現の自由も,通信の秘密も憲法上の権利で,大切です。
個人の名誉やプライバシー,ましてや著作権という財産権はこれらに劣後するんだというのであれば,それはそれで1つの考え方だとは思います。

だけど,ですよ。

私は日々,子供たちに授業で教えているんです。
「SNSで誹謗中傷をしてはいけない」
「投稿する前に,書かれる相手の気持ちを考えてね」と

誹謗中傷を助長するような判決は,もう書かんでくれと思うのです。
せっかく法改正するんですから。

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