堀尾の本棚

池上彰・佐藤優『伝え方の作法』

池上彰・佐藤優『伝え方の作法』(SB新書・令和3年)

 池上彰氏と佐藤優氏,この2人の対談は多いですね。今回はコロナ時代の伝え方(聞き方含む)の対談です。

「話す前に7割決まる
佐藤 そもそも懐に飛び込むのは何のためかというと,大半は仕事の成果につなげるためですよね。そうなるとまず問われるのは,どれくらい,その仕事をまとめ上げたいという情熱があるのか,自分の価値観をかけるような仕事だと思っているのか。…
佐藤 …次に重要なのは,自分の相手の信用に足るかということ。たとえば,仕事相手の基本的な情報や,その仕事に関する知識を頭に入れないままでは,相手の信頼を勝ち取ることは出来ないでしょう…(同書86頁)」

 就職活動でも営業でも交渉でも,ビジネスで人と話をするとき,目的は通常,仕事の成果,つまり合意の形成ですよね。弁護士の場合は多くの場合,紛争の解決です。
 たしかに,営業の人で,その人がよくよく勉強している人だと,ついつい買っちゃいます。相手と会う前に,ウェブサイトに載っているレベルのことは当然のこととして,その業界の事情,人となりなんかまで調べられるとよいですね。裁判官でも,情熱をもって,一緒に当該事件を解決しよう!という人には頭が下がります。
 佐藤氏はまず①情熱,次に②知識,とおっしゃっていますが,これらは比例しますよね。まとめたい!という情熱があれば,その分野,相手については勉強してから交渉に臨むものです。自戒を込めて。

 

「教養がにじみ出る『たとえ話』
池上 ところで佐藤さんは,何かを説明するときにパッと適切なたとえ話をしたり,海外・国内問わず文学作品などから表現を引いたりしますよね。聞いているほうは一瞬,『何の話だろう?』と思うんだけど,興味を引かれて,聞いていると,『ああ,そういうことか』と説明が腑に落ちる。そういうパターンの会話をすることが多いように見受けられます。要するに,言葉の引き出しが多い。これもじつは,わかりやすい説明ができるようになるには大切です。」(同書129頁)

 「ところで~。これと似たような話です。」という話法ですね。聞き手は「なるほど!」となります。佐藤氏は本当にうまいです。私も読書を怠らないようにして,教養を広げていきたいです。話を振られたとき,「全部適切にコメントしてやるぞ!」という意気込みです。

 

「佐藤…とはいえ,相手の都合のいい存在になってはいけません必要とあらば,みずからの利害や倫理観,使命感に従って紳士協定を破り去る覚悟をもって人と相対する。これはすべての人が肝に銘じておくべきことだと思います。」

 我々の仕事は紛争を解決することであり,そのためには裁判官や相手方との信頼関係を構築することが不可欠です。しかし,そうはいっても依頼者の利益を守ることが第一ですから,場合によっては,依頼者の利益を守るために,築き上げた交渉相手の信頼を破壊する覚悟をもって臨まねばなりません。

 

「佐藤 政治家は責任を取って辞めなくてはいけなくなるから,どうしてもこういう言い方(自分の間違いを認めない)言い方になりがちです。他方,我々一般人の場合はもっと単純な話で,こちらがミスをしたらすぐに謝る。シンプルですが,これに尽きます。」(同書185頁)

 本当にそうですね。たいていの失敗は,すぐに,しっかりと謝罪すれば問題になりません。

PAGE TOP