さいたま地裁平成29年10月3日決定・判時2378号22頁
【決定要旨】
「本件アカウントは、アカウント名、プロフィール欄の記載、ヘッダ画像及び投稿記事の全てにおいて、債権者が本件アカウントを開設したかのように装い偽った上で、閲覧者に対し、債権者が元AV女優であって、投稿した画像のアダルトビデオに出演しているかのような印象を与え、かつ、債権者がそのような画像を投稿したかのような印象を与えることを目的として開設され表現がされたものと認められる。
このように外形的にみても、本件アカウントは、アカウント全体が、どの構成部分をとってみても、債権者の人格権を侵害することのみを目的として、明らかな不法行為を行う内容の表現である。
このようなアカウント全体が不法行為を目的とすることが明白であり、これにより重大な権利侵害がされている場合には、権利救済のためにアカウント全体の削除をすることが真にやむを得ないものというべきであり、例外的にアカウント全体の削除を求めることができると解するとのが相当である。このような不法行為のみを目的として他人を偽るアカウントが削削除されたとしても、本件アカウントの保有者としては、別に正当なツイッターアカウントを開設することが何ら妨げられるものではない。」
【コメント】
1 個々の投稿削除が原則
ツイッターや掲示板の投稿削除を求める場合,個々の投稿の削除を求めるのが原則です。ツイッターアカウント全体や,掲示板のスレッド全体の削除を求めるのは(通常,権利侵害していない部分が含まれるため)難しいです。
本件は例外的に,他人がなりすましアカウントを作成し,あたかも元AV女優である旨のツイートを行っていたアカウント全体の削除を認めた画期的な裁判例です。判例時報の解説によると,「本件が最初の事例とみられる」そうです。
2 なりすまし
日々法律相談を受けていると,なりすましアカウント開設による被害は増えているな,と実感します。特に,(本人のブログやFacebook等から)本人の写真が冒用されることも多く,よりそれっぽい(本人らしく受け取られやすい)なりすましアカウントが開設されがちです。
このようななりすましアカウントにどう対処したらよいか。
1つは,本件のように,なりすましアカウントが本人の社会的評価を低下させているとして名誉毀損構成で戦う方法です。
もう1つは,本人の写真が冒用されている点をとらえて,肖像権侵害で戦う方法がありえます。
さらに第3の方法として,なりすましそれ自体をとらえて,「アイデンティティ権」侵害という新しい法律構成を認める(余地のある)判決が出ています。
⇒アイデンティティ権事件・大阪地裁平成29年8月30日判決