法律ABC

ツイッターにおける肖像権侵害・新潟地裁平成28年9月30日

新潟地裁平成28年9月30日判決・判時2338号86頁

(1)事案の概要
Yはいわゆるプロバイダである。
氏名不詳者Zは,ツイッターにおいてXの画像(本件画像)を添付の上,自分の孫娘「D」が安保法制反対デモに連れて行かれ,熱中症で死亡したとの記事(本件投稿)を投稿した。XはYに対し,プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を請求した。認容。
(2)判旨
「人は,みだりに自己の容姿を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,また,自己の容姿をみだりに公表されない人格的利益も有しているから(最高裁昭和…昭和44年12月24日大法廷判決…,最高裁平成…平成17年11月10日第一小法廷判決…),このような人格的利益を違法に侵害された者は損害賠償を求めることができる。」
「…Xの承諾を得ないで,上記…で認定した記載のある本件記事に添付して本件画像をツイッターで公開する(言い換えると,上記…のとおり多数の閲覧者がリツートできるようにする)ことは,Xの肖像権を侵害するとみるのが相当である。」
「Yは,本件画像はすでにウェブサービスで公開されていたのであるから,本件記事に添付して本件画像を公開することは,Xの肖像権を侵害するものではないと主張する。しかし,人格価値を表し,人格と密接に結びついた肖像の利用は,被撮影者の意思に委ねられるべきであり,ウェブサービスで本件画像が公開されていたからといって,このことから直ちにその方法に限定なく本件画像を公開できるとか,本件画像の公開について被撮影者であるXが包括的ないし黙示的に承諾していたとみることはできない。本件画像を添付した本件記事は,閲覧者をして,本件画像の被撮影者が本件発信者の孫である「D」であって,「D」はデモに連れて行かれて熱中症で死亡したと想起させるものであり,一般人であれば,自分の画像を死亡した他人として公開されることを包括的ないし黙示的に承諾するとは考え難い。このことは本件画像を公開した本件発信者においても容易に認識できたはずである。したがって,本件画像がすでにウェブサービスで公開されていたことを根拠とするYの主張は採用できない。」「…肖像権は,みだりに自己の容貌や姿態を撮影,公表されない権利であって,社会的評価の低下は肖像権侵害の成否に直接関係するものではない。」
(3)コメント
 「肖像権」という言葉は,私たちにもなじみのある言葉です。判例の言葉を借りれば,「みだりに自己の容姿を撮影されない」(京都府学連事件判決)「自己の容姿をみだりに公表されない」(法定画事件)権利のことです。本件は,そんな肖像権がインターネット,とりわけツイッターで問題になった事件です。インターネット上ので適当に拾ってきた写真画像を無断で利用する場合,既に他の「ウェブサービスで本件画像が公開されていたからといって」肖像権侵害にならないわけではありません。
 なお,写真には著作権も発生します。近時,特にTPP11の発行等の影響もあり,著作権の保護を厳しくする法改正が検討されています。インターネットで画像を利用する場合,商業利用のみならず,個人的な利用についても細心の注意が必要になってくる,そういう時代です。 

法廷画事件・最高裁平成17年11月10日判決

 肖像権に関する判例の到達点については,中島基至「スナップ写真等と肖像権をめぐる法的問題について」・判タ1433号5頁が秀逸です。

 

令和元年10月8日追記

近時,なりすましアカウント全体の削除を認める決定例がでました。

さいたま地裁平成29年10月3日決定・判時2378号22頁

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