【事案の概要】
Xはインターネット上で広告業務及び広告代理業務等を行う株式会社である。Yは検索エンジン「Google」を提供する検索事業者である。利用者がXを検索すると,「詐欺」「詐欺師」等が表示される(本件摘示事実)ことから,XはYに対し,名誉毀損を理由に検索結果の削除を求めた。棄却。
【判 旨】
「…本件検索結果の削除請求は,Xが,人格権としての名誉権に基づき,検索事業者であるYに対し,現に行われている侵害行為を排除し,又は将来生ずべき侵害を予防するため,侵害行為である本件検索結果の提供の差止めを求めているものであって,前記のとおり検索事業者による検索結果の提供は,検索事業者自身による表現行為という側面を有するとともに,検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会において,インターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしているところ,検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,検索事業者による表現行為の制約であるとともに,検索結果の提供を通じて果たされている上記の役割に対する制約でもあり,また,検索結果の提供の差止めは,事前抑制であることの性質上,予測に基づくものとならざるを得ないこと等から,損害賠償(民法710条)又は名誉回復のための処分(民法723条)等の事後救済の場合よりも広汎にわたり易く,濫用のおそれがある上,実際の抑制的効果が事後救済の場合により大きいと考えられるのであって,検索結果の提供の差止めは,表現の自由を保障する憲法21条の趣旨に照らし,厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容することができると解するのが相当である。
そして,最高裁昭和61年判決(※北方ジャーナル事件) は,…公務員又は公職選挙の候補者に対する評価,批判等の表現行為に関するものであって,本件検索結果の提供という表現行為とは異なるものの,…本件検索結果において摘示された本件摘示事実…は,公共の利害に関する事実であるから,その点で,本件検索結果の削除請求については,最高裁昭和61年判決が判示する要件が基本的に妥当するものといえる。」
「以上の事情を総合考慮すると,Xの名誉毀損を理由とする人格権に基づく本件検索結果の削除請求,すなわち,公共の利害に関する事実である本件摘示事実…に係る表現行為の差止請求については,本件摘示事実…による表現行為が専ら公益を図る目的のものでないことが明らかであるか,又は,本件摘示事実…が真実でないことが明らかであって,かつ,被害者であるXが重大にして回復困難な損害を被るおそれがあると認められる場合には,上記の表現行為の価値がXの名誉に劣後するということができ,有効適切な救済方法としての差止めの必要性も肯定されるから,上記のような要件を具備するときに限って,これが許されると解するのが相当である。」
※判例通称は著者付記。
【コメント】
「忘れられる権利」事件は犯罪歴,プライバシーの一種に基づいて検索結果の削除を求めた事案でしたが,本件は名誉毀損を根拠にしています。一方で検索事業者の表現の自由と利用者の情報流通基盤があり,もう一方で名誉毀損をされる人の人格権があり,これを比較するという大枠です。
この点,東京高裁は北方ジャーナル事件を引用し,名誉毀損される人の側に非常に厳しい要件を課しました。これは,あくまで検察結果に関する判断であり,個別のサービス(掲示板やSNS)に対する判断ではありません。