プログラム,顧客データの秘密管理性―出会い系サイト事件・大阪地裁平成20年6月12日判決・裁判所Web
【事案の概要】
出会い系サイトを運営する原告が,もと従業員とその転職先の被告らに損害賠償を請求した事件。原告は,もと従業員が自身の出会い系サイトのプログラムと顧客情報(営業秘密)を持ち出して使用していると主張。
【判 旨】
(1)本件プログラム
「 (イ) 本件プログラムは,上記のインターネットサーバー内に格納されているが,それをダウンロードするためには,サーバーへログインするためのIDとパスワードが必要であり,それを有していたのは原告ら代表者とP2のみであった。」
「 (ウ) 原告…は…合計4社に対して,本件プログラムの使用許諾契約を締結したが,そこでは,①被許諾者は使用料を支払うこと,②被許諾者は,プログラムの使用権の譲渡又は再使用の許諾,プログラムの化体した物,関連資料,マニュアル等の複製,プログラムの機密又は知識の漏洩,原告イープランニングの指定したサーバー以外のサーバーにおけるプログラムの使用及びサーバーの設置場所の移転を禁じられていた…。」
「…本件プログラムは,…さらに,原告社内でもアクセスできる者が限られていたのであるから,「秘密として管理されている」ものと認められる。」
(2)本件顧客データについて
「(イ) 原告イープランニングと原告マテリアルとが運営する各出会い系サイトは異なるが,代表者は同一人であり,双方の従業員が双方の業務を行うなど,両サイトは事実上一体として運営されていた。
(ウ) 本件顧客データのうち,会員登録された顧客のメールアドレスは,勧誘メールや返信メールを送信する宛先となるメールアドレスであり,また,会員の入金額,所有ポイント及び入力前ポイントからは,当該会員がサイトを利用する程度を知ることができる。
(エ) 原告らの従業員には,IDとパスワードが与えられており,社内のパソコンから本件顧客データを含むデータベースにアクセスするには,IDとパスワードが必要であった。
イ 上記事実に基づき,本件顧客データが法2条6項にいう「営業秘密」に当たるか否か検討するに,本件顧客データは,出会い系サイトに会員として登録する顧客のメールアドレスとその利用程度を知ることができる情報であるから,「事業活動に有用な営業上の情報」に当たることが明らかである。そして,本件顧客データが特に公知になっていたことも窺われないから,「公然と知られていないもの」と認められ,さらに,本件顧客データにアクセスするためには,IDとパスワードが必要であったのであるから,「秘密として管理されている」ものと認められる。
したがって,本件顧客データは,原告イープランニングの営業秘密であると認められる。」
「(管理がずさんな状態が)…が常態化し,かつ原告ら代表者らがそれを知りながら放置し,結果として原告ら社内におけるIDやパスワードの趣旨が有名無実化していたというような事情があればともかく,そのような事情が認められない限り,なお秘密管理性を認めるに妨げはないというべきである。そして,本件ではそのような事情は認められない。」
(3)転職先の使用者責任
「被告Y1は,P1,被告Y3及び被告Y2の使用者であり,被告Y3らが原告イープランニングから取得した本件プログラム及び原告らから示された本件顧客データを被告らサイトにおいて使用する行為が,被告Y1の事業の執行につきなされたものであることは明らかである。この点について被告Y1は,本件プログラムを取得する行為は,事業の執行につきなされたものではないと主張する。しかし,その取得行為自体は事業の執行としてなされたものではないとしても,それを被告らサイトにおいて使用する行為は,被告Y1の事業の執行につきなされたものにほかならない。」
【コメント】
顧客データの秘密管理性について,IDとパスワード管理があることから秘密管理性を認めています。
この点,印刷顧客情報事件では,顧客情報は営業担当者個人に帰属する部分との区別が問題となりました。
この差は何なんでしょう??
出会い系サイトの顧客情報は,サイトに登録してくれる個人(ユーザー)の情報であって,BtoBビジネスの営業担当者が足で稼いだ顧客情報とは異なる!というあたりではないでしょうか。
一口に顧客情報,といっても,業種や顧客の属性によって秘密管理性のハードルは違う,ということだと思います。
それから,本判決の重要なところとして,転職先の会社の責任も認められています。転職者を受け入れる企業としては,こういうリスクがありますから,前職の情報が混入しないように注意する必要がありますね。