東京高裁平成5年9月29日判決・判時1501号109頁・判タ845号267頁
【論点】
「もともと社会的評価が低い人は,さらに社会的評価が下がることはない。」
名誉毀損の裁判をやっていると,相手方からこのような反論を受けることがあります。
社会的評価が低い人の評価は,再度低下するのでしょうか??
【判決要旨】
「どのような人でも、極端な例を挙げれば、極悪非道な犯罪で有罪判決が確定している人でも、人として尊重されるべき一定の社会的評価を有しているというべきであるから、その人に向かって何を言ってもよいなどといえるはずはない。特定の人を対象にして、その人の態度や性格などに関する消極的な事実を重ねて指摘し、あるいは暗示して、多数の人々に流布させることは、たとえその人について既に芳しからぬ評判が立っている場合であっても、さらにその社会的評価を低下させることになることは明らかである。社会から受ける評価が低いとの点は、名誉毀損に対する賠償額の認定、判断に際して斟酌されるに止まるというべきである。」
【コメント】
本判決は,結論として名誉毀損を否定しているので,上記引用部分は傍論ではあるのですが,非常に的を得た判断であると考えます。
(同旨:佃克彦『名誉毀損の法律実務(第3版)』・弘文堂2017年,窪田充見『不法行為法ー民法を学ぶ(第2版)』・有斐閣2018年)
近年,このような反論がなされた判決として,大阪のまとめブログ事件があります。
なお,再度の社会的評価の低下を否定した(社会的評価が低いから,さらに下がることはない)判決も存在します。
が,特殊な事例判断と考えるべきで,
少なくとも損害賠償の前段階の裁判である,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求訴訟においては妥当しない判決であると考えています。