堀尾の本棚

本郷和人『「失敗」の日本史』

本郷和人『「失敗」の日本史』(中公新書ラクレ・令和3年)

久しぶりの更新は,日本史の本です。
私は世界史オタクなので世界史の本はよく買うのですが,日本史の本書は衝動買いです。とくに中学までの知識では室町政権についてはあまり知識がなかったので,「へぇーそうなんだぁ!」が多くよい読み物でした。

「応仁の乱」の本当の図式は,義満の代までさかのぼります。細川と他の有力大名の対立。さらにさかのぼると足利尊氏についたグループと,直義についたグループの対立。あの争いが,足利幕府の奥底にずっと火種として残り,それが畠山の相続争いをきっかにまた火をふいて「応仁の乱」となった。(152頁)

いつの時代も相続争いは大変ですね。特に,1人が家督を継ぐ世襲システムでは家が安定する代わりに,得られるものが1か0になってしまいます。
世界史の相続問題ですと,末子相続の伝統を持つモンゴル帝国では皇帝になれなかった兄たちがユーラシア大陸を征服してヨーロッパに及び,世界史上最大の帝国になります。
ハプスブルク家のカール5世=カルロス1世も面白いですね。

逆に現代的な平等な相続システムでは,カール大帝の3人の子供が領土を3分して,それがのちのフランス/ドイツ/イタリアの原型になった,という話が好きです。

 

…まして,信玄は偉大なカリスマ。いつの時代も同じですが,偉大な人物が亡くなると,後継者はその人と比べられて,なにをやってもしょぼく見えてしまうことになる。
これを回避するためには,徳川家康が設計したように,システムに移行してしまうしかないでしょうね。徳川幕府では,それぞれの能力はあまり機能する必要がありません。たとえ無能だろうが長男が跡を継ぐようにシステム化することで,安定を実現していました。(174頁)

財産は相続できますが,能力は必ずしも相続できません。
現代でもあるあるの,カリスマのジレンマですね。
一代で築かれた企業の事業承継は大変です。
私個人は,次世代を担う人は競争の中で先代と違う事業を起こすのがいいんではないか,と思っている派です。

世界史的にも世襲が上手くいっている例はあまり多くないです。
ローマの五賢帝はすべて養子への相続です。例外は清の最盛期の康熙帝⇒雍正帝⇒乾隆帝くらいでしょうか。

 

三成が極めて優秀だったことは間違いない。しかし優秀さだけでは人間はついてこないのです。逆に,特段なにもできないのに愛される人もいますが,三成はそうした人間社会の機微が分かっていなかった。

義の人,石田三成は個人的にけっこう好きです。
でも,いますよねー。言ってることは正しいんだけれど人望無い人。特にインテリ層。
弁護士としては法律の知識という意味の優秀さももちろん大切なんですが,人間味も大切にしていきたいですね。

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