【本の紹介】
橋下徹『実行力』(PHP新書・令和元年)
最近売れているこの本について,気になった点をコメントします。
1 リーダーの仕事について
「リーダーの仕事は,部下を『やる気』にさせること」
「僕が痛感したのは,『組織は口で言っても動かないが,何かを実現させるとメンバーの意識が劇的に変わる』ということです。今まで『できない』と思っていたことが『できる』という成功体験に変わると,エンジンがかかります。」
「…部下の意識改革をしようとするなら,小さな『改善』だけでゃなく,メンバーに衝撃を与えるようなことを実現させることが必要です。」(同書98頁から99頁)
最近,そういう仕事ができているかなー
…と,胸に手を当てて考えてしまいました。
2 優れたビジョン
「優れたビジョンは,簡潔で具体的」
トランプ大統領の減税政策について「最初はA4のたった一枚の紙から始まっています。優れたリーダー・トップの方針というものは,簡潔で具体的で,『それがあるからこそ組織が動くことができる』というものです。」
「他方,日本の予算編成でよく出される『メリハリのある予算』『少子高齢化時代の課題に対応できる予算』…などという方針では,組織は大改革に踏み出せません。このような抽象的なスローガンは,ごく当然のことを言っているだけで…」同書126頁
私のお付き合いさせてもらっている,成功している会社の社長は,会社の規模に関わらず,大事にしているものが明確でシンプルだな,と思いました。
3 トップが欲しい情報,資料
「トップは比較優位がパッと分かる資料が欲しい」
「職員が僕のところに持ってきた書類で,一番ムダだと思ったのは,口頭で説明できることが書いてある書類です。経緯や背景事情について説明文や解説文などは,わざわざ書類に書く必要はありません。それらは口頭で完結に説明してくれれば十分です。」
「定性評価で見て,『この観点ならA案が比較優位』『この観点ならB案あが比較優位』ということがきちんと整理してある資料は,いい資料です。」同書185頁から186頁。
もうね,これはすべてのビジネス文書がそうですね。口頭での説明ですら,そうです。
背景事情を後回し,という点は我々が裁判所に出す書面もそうです。
例えば訴状では,結論である「請求の趣旨」を冒頭に書いたうえで,結論を導くの骨格である「請求の原因」を,背景事情・経緯たる「関連事実」とを書き分けます。
なぜか,こういうことができる人ばかりじゃないですよね。
比較優位という視点は,特に弁護士実務ついて,司法修習でさんざん勉強させられるました。
例えば,「相手方に1000万円を請求する」という目標があるとすと,それを実現する複数の法律構成(法律上の根拠,理由)があって,どの法律構成をとるのが最もよいか,比較優位を検討するわけです。
いわゆる文系の世界では,唯一絶対の正解はなくて,複数のベターな正解から1つを選ばなければいけません。比較優位という視点はとても大事ですね。