ときめきメモリアル事件 最高裁平成13年2月13日
(1)事案の概要
X(KONAMI)のゲームソフト「ときめきメモリアル」は、プレイヤーが架空の高等学校の生徒となって、卒業式の当日、あこがれの女生徒から愛の告白を受けることを目指し、3年間の勉学や行事等を通してこれにふさわしい能力を備えるための努力を積み重ねるという内容の恋愛シミュレーションゲームである。Yは、そのハッピーエンドを簡単に実現できるパラメータのデータを記録したメモリーカードを輸入、販売した。そこでXは同一性保持権に基づいて損害賠償を請求した。
(2)判決要旨
「本件メモリーカードの使用は,本件ゲームソフトを改変し,被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。けだし,本件ゲームソフトにおけるパラメータは,それによって主人公の人物像を表現するものであり,その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ,本件メモリーカードの使用によって,本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるからである。」
「専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とする本件メモリーカードを輸入,販売し,他人の使用を意図して流通に置いたYは,他人の使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,Xに対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である。」
(3)コメント
ア はじめに
司法試験の題材にもなった超有名判例です。著作権法の古典ともいうべき事件ですが,最近読んでも興味深い点が多いですね。
パラメータをいじる改造メモリーカード,昔売っていましたよね。懐かしいです笑。ゲームのメーカーが改造メモリーカードの輸入・販売業者を訴えた,という構造の事件です。
さて,改造メモリーカードを使ったところで,ゲームソフトのプログラム自体を書き換えているわけではありません。
本判決の一審によれば,この事件で問題になっている「ときめきメモリアル」は当時のプレイステーション版です。プレイステーションのゲームソフトはCD-ROMですから,メモリーカードは単にセーブデータを保存しているだけで,CD-ROMは書き換えないですね。
本判決は「ときめきメモリアル」のストーリーに着目して,改造メモリーカードを使うと「その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになる」ことから,同一性保持権の侵害を認めました。
イ ゲームソフトが映画の著作物になること
パックマン事件以来,たいていのゲームソフトは著作権法のいうところの,「映画の著作物」(著作権法2条3項)に当たる,ということになっています。
ウ 侵害主体
この事件,改造メモリーカードを使って「ときめきメモリアル」のストーリーを書き換えているのは,ゲームのプレイヤーであり,販売業者はその道具(改造メモリーカード)を提供している(幇助している)に過ぎない,と見るのが素直だと思います(私は学生の頃そのように教わりました)※。民法719条2項により損害賠償を認めた,という見方です。
そうすると,最近出たヤフオク!クラック版ソフト事件との関係が気になるところです。同事件でも改変行為自体はユーザーがやっていると見えるのですが,東京地裁は,業者の方を著作権の侵害主体と見ました。
要するに,ユーザーと業者,どちらが著作権を侵害しているか,主要な行為をしているか,利益を得ているか,等を規範的に判断するということでしょう。
⇒ヤフオク!クラック版ソフト事件・東京地裁平成30年1月30日判決
エ 中立的行為による幇助??
また,道具の提供にすぎないとすると,同じように道具を提供しておきながら幇助者としての責任を問われなかったWinny事件との関係がおもしろいです。
Winny事件で問題になったWinnyというP2Pソフトは,著作権侵害にも,適法な通信にも利用できるソフトでした。ちょうど,包丁を使った殺人事件において,犯人に包丁を売った人が罪に問われないのと同じです(中立的行為による幇助といいます。)。
これに対し,改造メモリーカードは,著作権侵害にしか使えない,悪質なものだ,という評価が可能でしょう。
※なお,判決は侵害主体がだれか,はっきりとは言っておらず,違う読み方をする学説もあります。