佐藤優,手嶋龍一『ウクライナ戦争の嘘』(中公新書ラクレ・令和5年)
前回の佐藤優『国家と資本主義 支配の構造 同志社大学講義録『民族とナショナリズム』を読み解く』と同時に購入し,佐藤優強化月間の一環として読みました。
ちょっと時節から遅れてしまった感がありますが,ウクライナという国の歴史的背景の箇所が特に勉強になりました。
佐藤 今回の戦争の舞台となっている東部から南部の黒海沿岸地域は,親ロシア,ノヴォロシアといわれ,歴史的にもロシア人が多く,ロシア正教の影響力が強いのです。そして首都キーウを中心とする中部は,ロシア系,ウクライナ系両方の人たちが混ざっている。そしていまひとつが反ロシア感情を抱く西部のガリツィア。(75頁)
佐藤 マイダン革命以前は,勢力的にも歴史的な意味でも,このガリツィア地方はあまり表舞台に出てくることはありませんでした。そもそも,この地方がソ連領のウクライナ共和国に統合されたのは,第二次世界大戦後のことなのです。あの戦争まではロシアやソ連に飲み込まれた歴史をほとんど持っていない,それがガリツィア地方でした。
(中略)
佐藤 ここは,ハプスブルク帝国の崩壊後は,ポーランドに組み込まれていました。
(中略)
手嶋 ロシアの版図にならなかったことで,ガリツィアにはウクライナ民族主義の伝統が色濃く残ったのですね。
佐藤 そうです。ウクライナ民族主義運動の指導者といわれるガリツィア出身のステパン・パンデラという人物がいます。…40年代にはソ連と対抗するために,侵攻してきたナチス・ドイツに協力し,ユダヤ人,ポーランド人,チェコ人などの虐殺に手を染めています。しかも,独立の手段として協力しただけでなく,「純粋なウクライナ人」による支配というナチス流の人種イデオロギーに通じる世界観の持ち主でもありました。
(中略)
手嶋 ナショナリズムは時に猛毒を孕んでいますから警戒が必要ですね。(106頁から108頁)
現在のウクライナという国は,大きく3つの地域に分けることができ,ノヴォロシア地方はロシア(ソ連)に組み込まれたり,ガリツィア地方はポーランドに組み込まれたりと,歴史的な紛争の火種があったということですね。
世界史をみればアルザス・ロレーヌ地方(エルザス・ロートリンゲン地方)であったり,未回収のイタリア問題であったり,大陸国家には地続きの国との領土問題がよくあります。そこでは双方のナショナリズムが両立しませんから,妥協できない場合には戦争になってしまいます。
⇒佐藤優『国家と資本主義 支配の構造 同志社大学講義録『民族とナショナリズム』を読み解く』
島国日本の住人としては,こういうことは勉強しないとわかりません。本書は,現在のウクライナという国の成り立ちについてとりわけ勉強になりました。