堀尾の本棚

佐藤航陽『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』

佐藤航陽『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』(幻冬舎・平成29年)

少し前に話題になった経済の本です。
最近は接見のため長時間車を運転することが多く,amazonのオーディブルという声優さんが本を朗読してくれるサービスが重宝しており,読書(聞書?)がはかどります。おススメです。

 …自然に内在する力と,それに似た経済のベクトルの強さを考えると,ある着想が湧いてきます。
 それは「自然の構造に近いルールほど社会に普及しやすく,かけ離れた仕組みほど悲劇を生みやすい」という視点です。
 この仮説を証明する典型例が,マルクスの「社会主義」です。…結果的にはうまくいきませんでした。
 …特にアメリカは大量の移民を受け入れ,経済も自由競争を推奨し,雇用の流動性も高めることで強制的に新陳代謝を上げて世界最大の経済大国に成長しました。
 一方で,成長が止まった国(例えば日本や韓国)を見ると,資本や人材や情報の流動性は高くありません。つまり,社会の循環が止まっています。(101から102頁)

確かに,資本主義の競争社会,弱肉強食は自然界とよく似ています。
また,社会主義の是非や,アメリカが本当に新陳代謝しているかはこの際措いておいて,わが国の社会が本当に規制だらけで,これは自然の摂理には反しているという実感はあります。
何か新しいビジネスをしようとすればたいてい行政法規に触れますし,ベンチャー企業が資金を集めようとすれば金商法に触れます。

本書はトークンエコノミーやシェアリングエコノミーによる新しい経済を提唱するが,実のところわが国では既にほとんど規制されている。ICOやSTOは早々に金商法・資金決済法で封じられたし,UBERやAirbnb等のシェアリングエコノミーもわが国は既存の業者を優先した。
規制することそれ自体良し悪しは両論あるが,そんなんだから国際的な競争に勝てないんだ,とは思います。

 IoT・AI・ブロックチェーンが絡み合うと,このように勝手に回り続ける経済圏を作ることができ,従来のビジネスの収益構造を抜本的に変えてしまう破壊力があります。
 新しいテクノロジーの発達によって,経済は住む対象ではなく「作る」対象に変わりつつあります。
 …つまり,今目の前で起きているのは「経済そのものの民主化」なのです。
 これた全く似た現象はかつて「知識」でも起きました。テクノロジーの発明によって社会が劇的に変化した例に「活版印刷技術」の発明があります。(142頁から143頁)

 

 ITなどの新しいテクノロジーが生まれると人間が作った概念は変化を余儀なくされます。それまで文字の記録手段として主流だったのは紙ですが…神は記録手段の1つの選択肢になりました。
 …ITは価値のやりとりも電子的にやってくれる技術ですから,既存の「お金」を価値媒体手段の1つの選択肢変えてしまう力があります。…
 価値をやり取りする手段が現在の国が発行する通貨以外でも可能になると,ユーザーは自分にとって最も便利な方法を選んで価値のやりとりをするようになります。…
 手段の多様化により人々が注力するポイントが「お金」という手段から,その根源である「価値」に変わることは予想できます。…「価値」とは商品のようなものであり,「お金」とは商品の販売チャンネルの1つみたいなものです。(154頁から155頁)

筆者が提唱する,資本主義に代わる”価値主義”という経済の考え方は,私なりに下図のように解釈しています。

これって何かというと,P2P(ピア・ツー・ピア)なんですよね。経済のP2P。そう考えるとWinnyは20年進んでいたなぁー,と思うわけです。
方や著作権法の柔軟な解釈によりGoogleを生み出した米国,方やWinny事件で開発者の金子勇氏を潰したわが国。この手の話題になると暗い気持ちになります。

前述のとおり,トークンエコノミー,シェアリングエコノミーは既にわが国ではほとんど規制されてしまっています。わが国の国際競争力のためにも,1人1人が評価されるためにも,本書筆者の提唱する経済の民主化,多様化,分散化を,1つの夢として支持します。

 

 仮想通貨やトークンエコノミーの普及によって,こういった目に見えない価値もネットを経由して一瞬で送れるような仕組みが整いつつあります。…
 この世界で活躍するためには,他人に伝えられるほどの熱量を持って取り組めることを探すことが,実は最も近道と言えます。…その人でなければいけない,この人だからこそできる,といった独自性がそのまま価値に繋がりやすいです。(224頁)

結局大事なのはこういうことだと思います。
(送金,という点は資金決済法のハードルがありますが)
競争に勝っていくために,自分の価値を高めていくこと,好きなことに没頭すること,ですね。
小野和俊『その仕事,全部やめてみよう 1%の本質をつかむ「シンプルな考え方」』

 

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