法律ABC

Winny事件・最高裁平成23年12月19日判決

最高裁平成23年12月19日判決・刑集65巻9号1380頁

【判決要旨】

「Winnyは,1,2審判決が価値中立ソフトと称するように,適法な用途にも,著作権侵害という違法な用途にも利用できるソフトあり,これを著作権侵害に利用するか,その他の用途に利用するかは,あくまで個々の利用者の判断に委ねられている。また,被告人がしたように,開発途上のソフトをインターネット上で不特定多数の者に対して無償で公開,提供し,利用者の意見を聴取しながら当該ソフトの開発を進めるという方法は,ソフトの開発方法として特異なものではなく,合理的なものと受け止められている。新たに開発されるソフトには社会的に幅広い評価があり得る一方で,その開発には迅速性が要求されることも考慮すれば,かかるソフトの開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも,単に他人の著作権侵害に利用される一般的可能性があり,それを提供者において認識,認容しつつ当該ソフトの公開,提供をし,それを用いて著作権侵害が行われたというだけで,直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない。かかるソフトの提供行為について,幇助犯が成立するためには,一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり,また,そのことを提供者においても認識,認容していることを要するというべきである。すなわち,ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。」

「これを本件についてみるに,まず,被告人が,現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,本件Winnyの公開,提供を行ったものでないことは明らかである。
 次に,入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が本件Winnyを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められ,被告人もこれを認識,認容しながら本件Winnyの公開,提供を行ったといえるかどうかについて検討すると,Winnyは,それ自体,多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能とするソフトであるとともに,本件正犯者のように著作権を侵害する態様で利用する場合にも,摘発されにくく,非常に使いやすいソフトである。そして,本件当時の客観的利用状況をみると,原判決が指摘するとおり,ファイル共有ソフトによる著作権侵害の状況については,時期や統計の取り方によって相当の幅があり,本件当時のWinnyの客観的利用状況を正確に示す証拠はないが,原判決が引用する関係証拠によっても,Winnyのネットワーク上を流通するファイルの4割程度が著作物で,かつ,著作権者の許諾が得られていないと推測されるものであったというのである。そして,被告人の本件Winnyの提供方法をみると,違法なファイルのやり取りをしないようにとの注意書きを付記するなどの措置を採りつつ,ダウンロードをすることができる者について何ら限定をかけることなく,無償で,継続的に,本件Winnyをウェブサイト上で公開するという方法によっている。これらの事情からすると,被告人による本件Winnyの公開,提供行為は,客観的に見て,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開,提供行為であったことは否定できない
 他方,この点に関する被告人の主観面をみると,被告人は,本件Winnyを公開,提供するに際し,本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや,そのような者の人数が増えてきたことについては認識していたと認められるものの,いまだ,被告人において,Winnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており,本件Winnyを公開,提供した場合に,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めるに足りる証拠はない。」

【コメント】

 ファイル共有ソフトWinnyをめぐる事件は,社会的耳目を集め,上記のような結末を迎えました。判決が認定しているとおり,Winny自体は著作権侵害にも適法な用途にも使うことができ,その選択はユーザーに委ねられています。

 刑法の世界で「中立的行為による幇助」といわれる問題です。

 学生時代,よく私の師匠は「包丁で殺人を犯した人がいるときに,『もしかしてこの人,殺人するかもしれない』と思って包丁を売った人が,殺人の幇助に問われないのと同じことだ」と言っていました。

 道具の提供行為の責任を問われたとき,やはり道具の用途というのは非常に大事になります。ちょっと話は反れますが,パチンコやスロットの不正行為について,似たような議論があります。

 磁石を使ってパチンコ玉を不正に誘導する行為は,(パチンコ台に着席するだけでなく)実際に磁石を使用してパチンコ玉を誘導しようとした時点で窃盗の着手あり,というべきです。磁石自体はいろいろな用途があるもので,別に不正にパチンコをするためのものではありません。

 これに対し,スロットのボタンを押すタイミングを教えてくれる「体感機」を使用してメダルを取得する行為は,「体感機」を使用してプレーを始めた時点で窃盗の着手あり,というべきです。「体感機」は不正にパチスロをプレーする他に使い道がありませんからね。

 

 そこへ行くとときめきメモリアル事件における改造メモリーカードの提供行為はどうなんでしょうか??

 改造メモリーカードを買った人は,たいていゲームのパラメータを改造するんでしょうし,改造メモリーカードの提供は幇助の責任ありですね。

ときめきメモリアル事件・最高裁平成13年2月13日判決

 ちなみに,本件で被告人となった金子勇氏は,最高裁で無罪が確定してから1年半程度で,急性心筋梗塞により亡くなりました。イノベーターに対する日本社会の寛容さ,という点でも大変考えさせられる,平成の大事件でした。

アダルト動画サイト事件・大阪高裁平成30年9月11日判決

令和元年10月1日追記

 ユーザーの違法行為を「幇助」することについて,脱獄iPhone事件も参照。

脱獄iPhone刑事事件・千葉地裁平成29年5月1日判決

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