堀尾の本棚

橘玲『上級国民/下級国民』

【本の紹介】

 

いやぁー,おもしろかったです!

一気に読んでしまいました。以下,ネタバレ注意です。

1 「PART1 『下級国民の誕生』」

平成が『団塊の世代の雇用(正社員の既得権)を守る』ための30年だったとするならば,令和の前半は『団塊の世代の年金を守る』ためのの20年になる以外にありません。」(同書73頁)

「2040年には…現役世代1.5人で高齢世代1人を支えることにな」るとき(同書74頁),現役世代が高齢世代と同様の生活をするためには2000万円必要,というのが金融庁の報告でした。

当然,シルバー民主主義ですから,年金の受給年齢や額を根本的に変えることもできないんでしょう。若年層はがんばって2000万円作らないとです。

 

2 「PART2 『モテ』と『非モテ』の分断」

現代日本社会において,『下流』の大半は高卒・高校中退の『軽学歴』層なのです。」(同書85頁)

幸福感に関する調査をもとに,(大卒)学歴による『モテ』と『非モテ』の分断を論じています。

我々が実感として持っているけれどいいにくいことを統計やアンケートをもとに論じているパートで,ショッキングながらも,みんなわかってる話でした。

 

3 「PART3 世界を揺るがす『上級/下級』の分断」

「…こうして先進国のマジョリティは2つの階層に分断されます。イギリスのジャーナリスト,デイヴィッド・グッドハートはこれを『エニウェア族…』と『サムウェア族…』となずけました。

エニウェア族は,仕事があればどこにでも移動して生活ができるひとびとです。地元を離れて大学に進学し,そのまま都市の専門職に就き,進歩的な価値感をみにつけ,成果主義や能力主義に適応しています。グローバル化や欧州統合に賛成し,移民の受け入れや同性婚にも寛容です。

一方,サムウェア族は,中学・高校を出て地元で就職・結婚して子どもを育てているひとたちです。個人の権利よりも地域社会の秩序を重視し,宗教や伝統的な権威を尊重する『ふつうのひとびと』だとされます。

イギリスのブレグジットによって明らかになったエニウェア族とサムウェア族の分断は,現代社会が人種や民族,宗教によって分断されているわけではないことを示しています。

知識社会では,ひとびとは『知能』によって分断されるのです。」(同書215から216頁)

「東アジアでは,『日本人』『韓国人』『中国人』などののナショナル・アイデンティティを誇示するひとたちが増えています。

…彼らは互いに憎みあっていますが,ナショナリズム(国)に過剰にこだわる点でとてもよく似ています。

その一方で,…グローバル企業で働く日本人は,国内の『ネトウヨ…』よりも韓国や中国のリベラルなビジネスパーソンに親近感を抱くでしょう。」(同書217頁から218頁)

 

世界的な「分断」に関する本パートです。すごく腑に落ちました。

乱暴に言って,「地元のひととあんまり話が合わないなー」というあの感覚です。

それから,私は以前シンポジウムで韓国の弁護士と話をしたとき,「韓国の上流層は反日感情ってないんだなー」と感じました。あの感覚です。

世界で起きているマジョリティの分断について,1つの説明がなされ,私は身近な感覚として理解できました。

橘玲『無理ゲー社会』(小学館新書・令和3年)

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