法律ABC

オンラインストレージの公開設定の「公然」性・大阪高裁平成29年6月30日判決

大阪高裁平成29年6月30日判決・判時2386号109頁

※わいせつ電磁的記録媒体陳列,リベンジポルノ刑事事件

(1)事案の概要

 原審以来,被告人の行為について,元交際相手である被害者に対する強要未遂罪が成立することに争いはない。

 さらに,被告人は,被害者の露出した胸部等の画像・動画のデータ(以下「本件データ」)を,自身のオンラインストレージに保存していたところ,これを公開設定にしたうえで,被害者に対して公開先のURLを送信した。この行為が,わいせつ電磁的記録媒体陳列罪,いわゆるリベンジポルノ等に当たるとして起訴された。

 争点は,本件データが,わいせつ電磁的記録媒体陳列罪及びリベンジポルノにおける「公然と陳列した」に当たるか否かである。原審はこれを肯定したが,本判決は否定した(同罪について逆転無罪)。

(2)判旨

「ところで,前記の○○サービスやその公開機能の仕組み等…によれば,a社ユーザーが,○○サービスに保存したデータをマイ○○内で公開設定した時点では,そのユーザーに公開URLが発行されるにすぎないから,公開設定されたデータを第三者が閲覧し得る状態にするには,公開設定に加え,公開URLを添付した電子メールを送信するなどしてこれを外部に明らかにするというa社ユーザーによる別の行為が必要となる(○○サービスに不正に侵入し,公開設定されたデータの公開URLを入手することは不可能ではないとしても,これは一般の者が容易に行えるものではない。)。そして,a社ユーザーが,公開URLを電子メールに添えて不特定多数の者に一斉送信したり,SNS上や自己が管理するホームページ上でこれを明らかにしたりすれば,その公開URLにアクセスした者が公開されたデータを閲覧することは容易な状態となるから,当該データの内容がわいせつな画像等に当たる場合には,これを「公然と陳列した」ものとして,わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪等が成立すると考えられる。
 これに対し,本件では,被告人は,本件データを公開設定したが,その公開URLを電子メールに添えて送信した相手は被害者のみであり…,記録上,被害者以外の者に同URLを明らかにした事実はうかがわれない。そうすると,被告人が○○サービス内に記憶蔵置させた本件データを公開設定した時点では,その公開URLが発行されたにすぎないから,いまだ第三者が同URLを認識することができる状態になかったし,被告人が同URLを明らかにした相手は被害者のみであったため,ここでも第三者が同URLを認識し得る状態にはなかったというべきである。
 したがって,本件の場合,被告人が○○サービス内に記憶蔵置させ,本件データを公開設定したのみでは,いまだ同データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められず同データの公開URLを電子メールに添付して被害者宛に送信した点についても,特定の個人に対するものにすぎないから,これをもって同データの内容を不特定又は多数の者が認識し得る状態に置いたと認めることもできない。結局,被告人は,本件データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められないから,刑法175条1項前段及び画像被害防止法3条2項各所定の公然陳列罪は成立しないというべきである。」
「なお,いわゆるパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつな画像を記憶蔵置させる行為とわいせつ物の公然陳列に関する最高裁判所第三小法廷平成13年7月16日決定(刑集55巻5号317頁)の事案では,当該被告人の行為は,自ら開設,運営していたパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつ画像のデータを記憶蔵置させたことで完了しており,後は,不特定多数の会員が,自己のコンピュータを操作し,電話回線を通じて当該被告人のホストコンピュータのハードディスクにアクセスすれば,同データをダウンロードすることができる状態にあったというものである。また,児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為に関する最高裁判所第三小法廷平成24年7月9日決定(裁判集刑事308号53頁)は,当該被告人が,インターネット上にホームページを開設し,これを管理運営していた共犯者と,不特定多数のインターネット利用者に児童ポルノ画像の閲覧が可能な状態を設定しようと企て,共謀の上,第三者が開設していたインターネットの掲示板に児童ポルノ画像を記憶蔵置させていたことを利用し,その所在を特定するURLを一部改変して前記ホームページ上に掲載したという事案に関するもので,当該被告人が行ったのは改変URLのホームページ上への掲載であり,児童ポルノ画像は既に第三者が開設する掲示板に記憶蔵置されていたというものである。
 これらに対し,本件は,不特定多数の者が本件データを認識し得る状況になかった点で事実関係を異にするものであり,前記平成13年最高裁決定が示した「(刑法175)条が定めるわいせつ物を『公然と陳列した』とは,その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい,その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される」との判断を踏まえても,公然性は否定されると解するのが相当である。」

(3)コメント

 本判決は,わいせつ物公然陳列罪やリベンジポルノにおける「公然と陳列した」について,とりわけオンラインストレージの公開設定との関係で実務上意義があります。

 わいせつ物公然陳列罪における「公然と陳列した」については,本判決も引用する最高裁平成13年7月13日判決・刑集55巻5号317頁が判示しており,「その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くこと」に当たるかどうかが問われます。

 

 本判決はわいせつ物に関する刑事事件ですが,公然性を要件とする法律はたくさんあり,オンラインストレージの公開設定がこれを満たさないとした点については,他の法律の適用についても大変参考になります。少し乱暴ですが,インターネット上における「公然」って,いったいどこからでしょう??という問題の1つの答えです。

 例えば,民事のインターネット事件でよく使うプロバイダ責任制限法は「特定電気通信」,つまり不特定多数者に対するをインターネット通信を対象としています。要するに,知らない人から掲示板やSNSで誹謗中傷を受けた場合,同法で住所氏名の開示請求ができますが,個人のメールで誹謗中傷を受けたとしても開示請求ができません

 本判決を(多少乱暴に)応用すると,知らない人にオンラインストレージで侮辱的な文書を公開設定にされても,これを開示請求することは難しいでしょう。

 インターネット上の著作権侵害でよく使われる「公衆送信権」でも,同様のことがいえるでしょう。

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